SELアート実践事例集

「感情の色彩」プロジェクト:描画を通じた小学校低学年の自己認識と自己管理能力の育成

Tags: 小学校教育, SEL, 自己認識, 自己管理, アートセラピー, 描画, 感情教育

はじめに:感情の波と向き合う小学校教育の課題

小学校低学年の児童にとって、自己の感情を認識し、適切に表現・管理することは、社会生活を送る上で非常に重要なスキルです。しかし、発達段階においては感情の言語化が難しかったり、衝動的な行動に繋がりやすかったりするケースも少なくありません。このような課題に対し、アートは、言語に頼らない表現手段として、児童が内面と向き合い、感情を健全に育むための有効なツールとなり得ます。

本記事では、架空の「さくら市立みらい小学校」における「感情の色彩」プロジェクトを事例として取り上げ、アート専門家と学校が連携し、児童の自己認識および自己管理能力(SELの核となるスキル)を育成した実践についてご紹介します。

事例紹介:「感情の色彩」プロジェクト

1. プロジェクト概要

2. プログラム内容と実施方法

「感情の色彩」プロジェクトは、主に以下の3つの段階で構成されました。各段階で、アートセラピストがファシリテーションを担当し、担任教員とスクールカウンセラーが児童の観察と個別のサポートを行いました。

第1段階:感情の可視化と多様性の認識(セッション1~3)

児童たちは、まず自身の感じている感情を自由に紙に表現する活動から始めました。

第2段階:感情のグラデーションと変化の理解(セッション4~6)

感情は単一ではなく、強さや質が変化することをアートを通じて学びました。

第3段階:感情との対話と自己管理への応用(セッション7~8)

これまでの活動を通じて認識した感情と向き合い、自己管理のヒントを探ります。

3. アート専門家との連携の具体

本プロジェクトでは、経験豊富なアートセラピストがプログラム全体の設計とセッション実施におけるファシリテーションを担いました。アートセラピストは、児童の非言語的な表現を深く理解し、それぞれの児童の感情状態や発達段階に合わせた声かけやアプローチを調整しました。

一方、担任教員は、日頃の児童の様子やクラスの状況をアートセラピストと共有し、具体的な行動や人間関係の課題をプログラムに反映させるための重要な情報を提供しました。スクールカウンセラーは、特に情緒面で手厚いサポートが必要な児童に対する個別フォローや、保護者へのフィードバック、学校全体でのSEL教育推進に向けた助言を行いました。定期的な会議を通じて、三者が密に連携し、児童一人ひとりの成長を多角的に支援する体制を構築しました。

4. 得られた効果

プロジェクト終了後、担任教員による観察評価、児童への簡易アンケート、アートセラピストによるアセスメントを通じて、以下の効果が確認されました。

考察と今後の展望

「感情の色彩」プロジェクトは、アートが児童のSELスキル、特に自己認識と自己管理能力の育成において極めて有効な手段であることを示しました。アートを通じた非言語的な表現は、言葉だけでは伝えきれない内面の状態を可視化し、児童が自身の感情と向き合うための安全な場を提供します。

この事例から得られる示唆は、感情教育においてアートを単なる楽しい活動としてではなく、意図的かつ体系的にSELの目標と結びつけることの重要性です。アート専門家の持つ専門的な視点と技法、そして教員やスクールカウンセラーの持つ児童理解と教育現場の知見が融合することで、より効果的なプログラムが実現できます。

今後も、こうした連携を強化し、継続的な実践と評価を行うことで、アートが学校教育においてSELを促進する可能性をさらに広げていくことが期待されます。